エッセイ 韓国語の物語

 

漢字の発想

人徳<人福>(インドク)と人徳(じんとく)

思い出すだけで、いまでも顔が赤くなるほど恥ずかしくなる失敗談。
私は、日本語を習って7年間もこの間違いを繰り返していた。東京の語学スクールで、警察官の語学研修が終わって打ち上げの時だった。幹事のMさんが、「一年間、ご苦労さまでした。これだけ大人数が一人でも脱落しないで韓国語を楽しくやれたのは先生のお陰です」と、精一杯のねぎらいの言葉をかけてくれた。
「私にはジントクがあるんですよ」と私はいつものように言った。すると、その幹事(とっても優しい人)が、「先生、それは日本では自分で言わないんですよ。先生が誤解されるのはいやだから、僕が教えます」
それから、大変な事実を知らされた。家へ戻って辞書を調べて、またショック。おっちょこちょい。そそっかしい。勉強不足。怠慢。どんな言葉でも物足りない。日本語の「ジントク」と、韓国語の「インドク」。漢字ではどちらも「人徳」と書く。漢字の能力が乏しい私は、「ジントクがある」という言葉が日本語にあると知って、韓国語の「インドクがある、インドクが多い」という言葉と同じだと思ったのだ。韓国語では、「インドク(人徳)がある」は、「人様の徳のお陰です」を意味する。同じ意味で、「インボク(人福)がある」とも言い、「人様の福をもらってます」になる。
つまり、「皆様のおかげです」と言ったつもりだった。私は、7年以上もこの言葉を使ってきたのだ。笑うに笑われない皆さんの顔が脳裏に浮かぶ。私は、この時に気づかせてくれた警察官Mさんのやさしい顔が今でも忘れられない。

 

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