コラム 韓国文化 「韓国の民話の世界」連載 |
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チュニャンとイ・ドリョン |
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2004年1月号から連載してきた「韓国民話の世界」は、12月号をもって終ることになりました。シリーズの最後に、韓国古典の傑作「春香伝」を紹介したいと思います。今号で物語のあらすじを書き、次号でそこに描かれた男女観や恋愛観などについて書く予定です。 私が10代の前半を過ごした韓国南部のチョルラド(全羅道)ナモン(南原)では、「チュニャンとイ・ドリョンの話」として人々に語りつがれていました。「春香伝」はナモンで生まれたからです。私にとって、この物語は祖母から聞かされた民話と同じように身近なものです。 |
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「シムチョン」の話は、日本の「髪長姫」と似ている。娘の髪が生えないことを悩んだ猟師夫婦が、髪が生えるように願って荒れ狂う海に入っていく。小さな観音像を見つけ、それに祈ることで両親の願いは叶う。だが、両親は娘の元には戻れない。髪が黒々と伸びて髪長姫と呼ばれるようになった娘は、王妃として宮廷に迎え入られる。 「シムチョン」の場合、娘が父のために海に身を投げるが、「髪長姫」では娘のために両親が犠牲になる。日本の「髪長姫」の方が現実的といえよう。 犠牲によって願いが叶い、仏の象徴の蓮の花や観音像と結びついて、その国の最高権力者と結ばれることは、いずれも同じだ。 「シムチョン」の話のように、娘が父のために命を絶つことが孝行と考えられた背景に、下層の人々の置かれた貧困があるように思う。平凡な親孝行をすることすら不可能だった状況を読みとることもできよう。 「シムチョン」の話は、親孝行物語として今も人気が高い。映画化もオペラ化もされた。韓国でも核家族化が急激に進み、両親と暮らすことが難しくなっている。ヨン様は孝行息子として知られる。結婚したら両親と一緒に暮らしたいと言ったことが話題になってもいる。かつて当たり前だったことが、この頃は韓国でも珍しいことになったのだ。 |
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