コラム

韓国文化 「韓国の民話の世界」連載


ウンロイ・セッシ
   
 ウロンイはタニシ、セッシは嫁のこと。30年ほど前、田んぼでウロンイを捕まえる光景がよく見られた。食用にするため、タライに入れて台所に置いておくと、朝、タライのふちにあふれそうにウロンイが群がっていたものだ。タニシが身近にいたからウロンイ・セッシの話は現実的に感じられたのだ。今は田んぼでウロンイを探すことも難しくなっているという。韓国も日本も同じだろう。
  女に化けたウロンイが言葉を話し、ご飯とみそ汁を作る。田んぼで仕事する農夫のチョンガ(独身男性)が異性に抱く思いから生まれた幻想だったかもしれない。
   
 タニシの嫁をもらう話は、人間でない異類の女が正直で心根の優しい男のもとに来て結婚する異類女房譚と言われる話だ。ウロンイ・セッシの話では、女が男に幸せをもたらすことになっている。田んぼに住むタニシと男が結ばれる形は、チョンガの農夫の結婚願望を表しているのだろう。
  日本にも「狐女房」「魚女房」「蛇女房」などの異類女房譚がある。日本の民話では、見てはいけないタブーを破ることで女の素性が知れたり、それが原因で男のもとを去っていく。幸せな結婚が破綻してしまう話だ。
  ウロンイ・セッシの話には、見てはいけないというタブーがない。結末はハッピーエンドだ。ただし、王様という障害が2人の幸せな結婚生活に立ちはだかり、じゃまをする。庶民が権力者にいじめられることの比喩だろうか。支配者や権力者に対する反抗とも理解できる。そんな障害を乗り越えることで、2人は結束を強めるのだ。
  今も日本の東北地方の農村部では、嫁のなり手がいなくて困っている。アジアから日本にやって来る女性たちは、現代のウロンイ・セッシなのかもしれない。10年ほど前から韓国の南部地方の農村も他のアジア地域から嫁を取る状況になっている。

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