コラム 韓国文化 「韓国の民話の世界」連載 |
|
ナムクンと仙女 |
|
ナムクンのナムは木。クンは、何かを生業としている人の意味だ。ナムクンは木をとって生計を立てる木こり、チャンサクンは商売人だ。サギクン(サギ師)、スルクン(酒飲み)などの言い方もある。 韓国の伝統的な家屋の暖房は、部屋ごとの焚き口から火をくべるオンドル。だから、木をとって売るナムクンは、韓国人の庶民の暮らしに直結している。 「ナムクンと仙女」は、木こりという一庶民と天上界の仙女が結ばれる話だ。地上と天上を結ぶ恋物語として韓国人によく知られている。 ナムクンと仙女を結ぶ役割を果たすのは鹿だ。人の恩に報いる動物とされる鹿にまつわる物語が少なくない。特に、白毛の鹿は超能力を持ち、鶴とともに天の意思を伝える神聖な動物とされた。私は幼い頃から、「ナムクンと仙女」に出てくる鹿はきっと白毛だろうと思っている。 |
|
鳥は天上界と地上界を往来する神の使いとされ、鳥が羽毛を脱いで娘に変身する話は世界中に広く分布している。だから、欧米の学者たちは、「ナムクンと仙女」のモチーフの話を白鳥処女説話と呼んでいる。日本の羽衣伝説もその一つである。 日本の羽衣伝説の多くでは、羽衣を見つけた天女が天に帰っていく。その点は「ナムクンと仙女」と共通だ。だが、日本では牽牛・織女のイメージを強く持ち、毎年7月7日に、天の河をはさんで会える「七夕伝説」と融合している。木こりが永遠に天上に帰還できない「ナムクンと仙女」の話とは異なっている。 異界をモチーフにした韓国の異郷女房の話といえば、「ナムクンと仙女」が唯一だろう。日本の「浦島太郎」や「鶴女房」のように海の世界の女性や鳥類と結ばれる話はない。いずれにしても共通しているのは、「開けてはいけない」「見てはいけない」というタブーと、それを主人公が破ることで元に戻れなくなることだ。 「ナムクンと仙女」の特徴は、動物の報恩と親孝行の話が中心になっていることだろう。ナムクンは年老いた母親との二人暮らしだし、母親に会いたくて天上界から帰還する。一方、鹿は子供が3人産まれるまで羽衣をわたしてはいけないという条件を付ける。二人なら、両脇に抱えて飛べるが、3人だと一人残して飛ばなくてはならないからだ。母性本能が組み込まれている。私はこの話に父親が登場しないのが不思議でならない。今も謎のままだ。 |
|
コラム&エッセイへ戻る |