コラム

韓国文化 「韓国の民話の世界」連載


トケビのパンマンイ
   
 一本足で頭に角がついていて、人間を脅すこともあるトケビ。韓国の子供なら誰でもトケビを知っている。「♪イサンハゴ・アルムダウン・トケビナラ♪」(不思議で美しいトケビの国)という童謡があるぐらいだ。子供たちはトケビが住む国を、美しい別世界のように思うこともある。だから、トケビが大好きで、友達のように親しみを感じる。 
 私も小さい頃、山道を歩いていて遠くに怪しげな家が見えると、「トケビの住みか」だと思ったりした。暗い夜道を歩いていて遠くに火の玉を見たら、今でも「キャー、トケビ〜」と叫ぶかもしれない。トケビはまた、奇怪な姿や現象などをさす表現にも使われる。トケビガチ(トケビのよう)、トケビナオンダ(トケビが出るぞ)などと言う。怪しげな家をさして、トケビチプ(トケビ屋敷)と言うこともある。
 トケビは妖怪とは限らない。相撲が好きなトケビもいる。なべやほうきがトケビになったり、かさや茶わんのトケビもいる。パンマンイという鬼の金棒のようなものを持って、打ち出の小槌のように、何でも出すことができる。トケビは、パンマンイを使って大きくなったり、水の上を歩いたりもできる。
トケビといえば、ケアム(ハシバミの実)だ。クルミに似たような実だが、昔の人は、山に入ってお腹が空くとケアムを食べたという。ケアムは胃や腸の働きをよくし、空腹を感じさせない効用があるらしい。
   

 「トケビって日本では何だろう」と日本人の夫が言った。横で聞いていた6歳の息子が、すかさず「おに!」と叫んだ。「こぶ取り爺さん」とそっくりな話が韓国にある。「ホップリ・ヨンガム」という。日本の話では鬼、韓国の話ではトケビが登場する。どちらの話も知っている息子は、韓国のトケビと鬼を同じだと思っているようだ。確かに日本の鬼とトケビはよく似ているが、どこか違う。
 韓国の民話にはよくトケビがよく出てくる。怪力や魔力を持つ日本の鬼に似ている。だが、カッパに近い親しみを感じさせる面もある。いつも楽天的で、人や家畜に危害を与えることはない。いたずら好きで愛嬌がある。時には、ちょっとしたことに驚いてあわててしまう。「桃太郎」の話では鬼が退治されるが、トケビが退治される話はない。
 トケビが登場する民話はユーモラスなものが多い。「トケビのいたずら」という話は、川にカニを取りに行ったおじいさんがトッカビにだまされる。かごいっぱいとパジ(ズボン)につめ込んだはずのカニが、実は牛の糞だったという話だ。
 トケビは変幻自在で、正体は一つではないと言われる。鬼の子と人の子の両面を持ち、あの世とこの世に出入りできる。人に富をもたらすこともあるが不幸にすることもある。


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