コラム 韓国文化 「韓国の民話の世界」連載 |
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カチの恩返し |
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「カチの恩返し」と聞くと、私の世代の韓国人は登場するカチと蛇のイメージを真っ先に思い浮かべる。カチは古くから、作物の豊穣と幸福をもたらす鳥とされている。「カチガ・ウルミョン(カササギが鳴くと)」と聞けば、何かいいことがあると思う。家の近くでカチが鳴けば、「今日は待ち遠しい人が来る」と連想したりする。 幼い頃、歌った童謡の歌詞に「昨日はカチの正月で、今日は私達の正月だ」とあった。カチの正月がなぜ昨日なのか、とても気になった。後でわかったことだが、大晦日に親類兄弟が集ってくる。会いたい人々が来ることをカチが知らせてくれるのだった。 一方、蛇は忌み嫌うものとされた。旅に出かけて蛇を見たら戻れとか。家族の誰かが蛇を殺したために、その家に不幸が起った、などなど。子供の頃、男の子たちがいたずらで蛇を殺したりするのをみるのは怖かった。 昔はよく「カチの恩返し」の話を聞かされたものだ。「恩を忘れてはいけない」。祖父母から、躾のひとつとして言われた。父母や恩師など、人はさまざまな人の恩を受けながら生きる。カチは恩を大事に思い、それに報いることの手本になっていた。男の子が遊びに出かける時は、むやみに蛇などを殺さないように注意された。「カチの恩返し」を聞くと、子ども心にも蛇の怖さを感じ、カチの優しさと悲しさが伝わってきたものだ。 |
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韓国では、蛇が雛をいじめる話が他にもある。「カチの恩返し」は単なる恩返しではなく、カチが身を犠牲にして恩返しをする。日本の「鶴の恩返し」の話と似ているが、鶴の話にはない、善(カチ)と悪(蛇)の対立があるように思う。幸福と豊穣をもたらすカチは、命にかえて恩に報いる。忌み嫌われる蛇がカチをいじめ、さらに人間に復讐することが善悪の対立を増幅している。 カチの話にはまた、殺生戒や寺の鐘を打つという設定など、仏教的な要素が盛り込まれている。韓国人の死生観や報恩に対する考え方の基盤に仏教的なもの流れているのである。 |
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